メリークリスマス!

今年もクリスマスシーズンがやってきました。「Christmas(クリスマス)」は「Chirist(クライスト=キリスト)」+「mass(マス)」と分解できますが、「mass」とは日本語で言うところの「missa〔羅〕(ミサ)」のこと。英語では他に「Marymass(メアリーマス=聖母マリアの祝日)」、「Michaelmas(ミケルマス=聖ミカエル祭、9月29日)」、「Martinmas(マーティンマス=聖マルティヌス祭、11月11日)」といった日も存在します。また、10月31日のお祭り「Halloween(ハロウィーン)」は「Allhallowmas(オールハローマス=万聖節)」の前夜という意味で「Hallow(ハロー=聖人)」+「eve(イヴ=前夜)」が訛ったものです。

この「mass」や「missa」の語源はラテン語の「mittere(ミテレ=送る、放つ、解散する)」で、礼拝の終わりに司教が告げる言葉「Ite, missa est.(イテ・ミサ・エスト=行け、解散だ)」に由来すると言われています。このセリフは後に「行って神の言葉を伝えよ」という意味に拡大解釈され、ヨーロッパの聖職者はこぞって世界各地に布教に出かけて行きます。この伝道の使命こそが「mission(ミッション)」。キリスト教系の学校を指す「mission school(ミッション・スクール)」の本来の意味は「伝道学校」なのです。因みに、「ミッション車」の「ミッション」は、語源は同じですが違う単語の「manual transmission」の略です。対する「オートマ」は英語で「automatic transmission」ですので、あまり適切な略語とは言えないですね。なお、「mittere」の派生語には他に「message(メッセージ←伝えるもの)」、「missile(ミサイル←放つもの)」があります。

では一方の「Christ」の語源は何かというと「chrisma〔希〕(クリスマ=聖香油)」。すなわちキリストとは「塗油により聖別された」という意味です。当時、香油は非常に貴重なものでした。例えばキリストが生まれたときに訪ねてきた3人の博士の贈り物は「黄金」、「没薬」、「乳香」。子供の頃から「モツヤク」って一体何だろうと謎に思っていた方も多いと思いますが、これはカンラン科の木から取れる樹脂で、聖油の原料となる香料です。黄金と比せられるほど高価なものだったわけです。因みに没薬はラテン語で「myrrha(ミルラ)」ですが、この香料が死体の防腐剤としても使われていたことから、日本語の「ミイラ」の語源になっています(漢字の「木乃伊」は同源のオランダ語「mummie(ミュミー)」の音訳です)。

「Christ」をギリシャ語で書くと「Χριστοζ」。「Xmas」の綴りはこの頭文字「Χ(カイ)」を取ったものですが、その文字の形「cross(クロス)」との発音の類似からの連想も働いていると思われます。また、最初の2文字「ΧΡ」を組合わせた記号「ΧΡ」は「カイロー」または「キーロー」と呼ばれ、キリストを表すシンボルとして使われます。今年発売された「Windows XP」の名前を見るたびに、私はこのシンボルを思い出してしまうのですが、業界からの期待を背負ってリリースされたこのOS、果たして布教…じゃなかった不況を救う救世主となるのでしょうか?(一応XPは「eXPerience(=体験)」の略語とされていて、決して「eXPeriment(=実験)」の略ではありません ^_^;)


おまけ ― 「chrisma」から派生した別の単語に「cream(クリーム)」があります。森永乳業の乳製品「Creap(クリープ)」は「creamy powder」の略ですが、英語には「creep(クリープ=虫などが這いずり回る)」という単語があるので、怪しい名前の日本のモノとして話題にのぼる定番商品の一つとなっています。