所変わればイヌ変わる

西洋の犬は働き者です。この事は犬種の名前にもあらわれています。「shepherd(シェパード)」は「羊飼い」。「bulldog(ブルドッグ)」は闘牛用に改良された犬、鼻が低いのは牛に噛み付いても窒息しないようにです。

最も多い職業(?)はやはり狩りのお供です。日本でもブームを呼んだ「ゴールデン・レトリバー」。「レトリバー」を「red river(レッド・リバー=赤い川)」と思い込んでいる方もいますが正しい綴りは「retriever」。獲物を「retrieve(リトリーヴ=回収する)」してくる犬というわけです。

日本では愛玩犬と見なされている「terrier(テリア)」は、もとは「terra〔羅〕(テラ=地面)」にもぐってアナグマなどを追い出す狩猟犬。同根の単語に「territory(テリトリー=領土)」、「terrace(=テラス、台地)」、「terra cotta〔伊〕(テラ・コッタ=焼いた土→素焼き)」、「terrine〔仏〕(テリーヌ=陶製の鍋→この鍋で調理する料理の名)」などがあります。フランス語で「pomme de terre(ポム・ド・テール=地中のリンゴ)」と言えば「ジャガイモ」のことを指します。「Mediterranean(メディタレイニアン)」は原義に忠実に「地中海」と訳されていますね。スピルバーグ映画「E.T.」は「extraterrestrial(エクストラテレストリアル=地球外(生命))」の略です。

「dachshund(ダックスフント)」も「Dach〔独〕(ダック=アナグマ)」を捕る「Hund〔独〕(フント=犬)」の意味。この「Hund」に当たる英語が「hound(ハウンド)」、大友康平率いるバンドの名前「ハウンドドッグ」は文字どおり訳すと「犬犬」ですが、和製英語と言うわけではなく英語でも「猟犬」の意味で使います。アメリカ最大のバス会社「Greyhound(グレイハウンド)」は、灰色で車体が長かった初期の頃のバスのニックネームが社名になっています。

これに比べて日本では猟や闘犬がそれほど盛んではなく、せいぜい番犬程度の役割しかなかったため、「柴犬(=小さい犬)」、「土佐犬」、「秋田犬」と単純な名前の犬が多いですね。それにしても一番かわいそうなのが中国の犬。中国では犬を食用としていた時代がありました(今でも地方によっては食べているようです)。イギリスの首相が在英中国大使にシェパードを贈ったところ、数日後「先日は美味しい犬をありがとうございました。」との礼状が返ってきたという「事件」もあったとか。英語で「eat dog」と言えば「屈辱を忍ぶ」の意味、首相はさぞかしビックリしたことでしょう。因みに中国原産の「チャウチャウ」の語源は「食べられる犬」だという説もあります。


おまけ ― さらに興味のある方は『犬種名由来辞典』をどうぞ。私が一番好きなのは「pug(パグ)」の語源。ラテン語の「pugnus(プグヌス=握りこぶし)」からなんだそうです。