Agの国

以前、植民地だった国の名前には「そのまんまやんけ〜」とつっこみたくなるようなものが結構あります。例えばアフリカの「Côte d'Ivoir〔仏〕(コート・ジ・ボアール)」。私の中学時代の記憶が正しければ、確かカカオの産地だったような。それはともかく「côte」は英語に訳せば「coast(コースト=海岸)」の意味です。

ここでちょっと話題がそれますが、フランス語では語中の「s」が消失して、代わりにその前の母音の上に「^(アクサン・シルコンフレクス)」がつくことがよくあります。例えばフランス料理によく出てくる「pâté(パテ)」は英語で言えば「paste(ペースト)」。森トラストグループが経営するリゾート「la forêt(ラ・フォーレ)」は、英語にすると「the forest(フォレスト=森)」。「château(シャトー=城)」も英語の「castle(キャッスル)」と比べると「s」が抜けていることに気が付きます。さらに、英語の「hotel(ホテル)」は、18世紀前半にフランス語の「hôtel(オテル)」から入った単語ですが、それよりずっと前13世紀にやはりフランス語から借りた単語が「hostel(ホステル)」。つまり「hotel」と「hostel」は元来同じ言葉だったのですが、日本語でも目新しい外来語の方がちょっとエレガントな印象を受けるように、後から入ってきた「hotel」の方が高級なイメージが持ってしまったというわけです。

閑話休題。というわけで「côte」=「coast」なわけですが、「d'ivoir」は「de ivoir」の略で、英語に訳せば「of ivory(アイボリー=象牙)」。合わせて「象牙海岸」国というわけです。

「Australia(オーストレイリア=オーストラリア)」はラテン語で「南の」の意味。オーストラリア発見以前から、北半球のユーラシア大陸とつりあう大陸が南半球にあるに違いないという大陸バランス説が唱えられていました。この仮説上の大陸はラテン語で「Terra Australis(テラ・アウストラリス=南の大陸)」と呼ばれていたのですが、結局これに該当する規模の大陸は見付からず、仕方なく(?)現在のオーストラリアにこの名がつけられました。因みに南アフリカで発見された猿人「アウストラロ・ピテクス」は「australo〔羅〕(=南の)」+「pithecus〔希〕(=猿)」の意味。発見者によって命名されましたが、ラテン語とギリシャ語がごちゃ混ぜなので当時の学者からはバカにされたのだとか。

ところ変わって今度は南米。赤道直下の国「Ecuador〔西〕(エクアドル)」が英語で言うところの「equator(イクウェイター=赤道)」という知識は、世界地理の「さてエクアドルは地図上のどこでしょう」てな問題対策としてはいいかもしれません。

ちょっとひねりがあるのが「Argentina(アルヘンティーナ=アルゼンチン)」。もともとこの地方は、スペイン植民地時代は「la plata(ラ・プラタ)」地方と呼ばれていました。今でもラ・プラタ川の名前に残っていますが「plata」はスペイン語で「銀」の意味です(白金は外見が銀に似ているために「platina(プラチナ=かわいい銀)」と呼ばれています)。しかし独立する際にこの名前を嫌ってつけたのが今の名前。ラテン語でやはり「銀」を意味する「argentum」に由来します。銀の元素記号が「Ag」であるのも納得ですね。因みに"お金の情報誌"「あるじゃん」という雑誌がありますが、この名も同一語源のフランス語「argent(アルジャン=銀、お金)」と日本語「あるじゃないか」を引っかけたものです。