ケルンの水

カタカナのような便利な発音記述法を持たない言葉では、他国語の地名を自国語流にアレンジしてしまうため、元の発音とは似ても似つかぬ単語に変わってしまっていることがよくあります(「マイケルさん七変化」や「野蛮人クリーム?」も参照ください)。ヨーロッパでは、発音が違うのに共通のアルファベットを使っていることも、この混乱に拍車を掛けています。英語における例をいくつか挙げると、

現地語 英語
Venezia〔伊〕(ヴェネツィア) Venice(ヴェニス)
Napoli〔伊〕(ナポリ) Naples(ネイプルズ)
Waterloo〔仏〕(ワーテルロー) Waterloo(ウォータールー)
München〔独〕(ミュンヘン) Munich(ミューニック)
Praha〔チェコ語〕(プラハ) Prague(プラーグ)

綴りに影響されているものが多いですが、花の都「Firenze〔伊〕(フィレンツェ)」が「Florence(フローレンス)」と意訳されている例などもあります。

「おやっさん、こないだフィレンツェに行ってきたんだって?」
「いやいや、フローレンスに行って来たんだよ。」
「そうかい、おらまた、てっきりフィレンツェに行ったんだとばかり思ってたよ。」

なんて落語に出てきそうな会話も十分起こり得ますね。(^_^;

古くからローマ帝国直属の都市だったために、英語でいうところの「colony(コロニー=植民地)」にあたる不名誉な名前をつけられてしまったドイツの「Köln(ケルン)」もこのような例の一つで、フランス語では「Cologne(コローニュ)」と呼ばれ、「eau de cologne(=オー・デ・コロン=ケルンの水)」とはこの地が香水の産地だったためについた名前です。因みに、登山道でよく見かける石を積み上げて作った道標「ケルン」は、同じくドイツ語であるということを除いてはこの町とは何の関係も無く、英語の「core」に対応する単語「Kern(ケルン=石)」に由来します。登山用語はやはりドイツ語ですね。カタカナの弱点―「L」と「R」の違いが書き分けられない―の例でもあります。

「日本」も「Japan〔英〕(ジャパン)」、「Japan〔独〕(ヤーパン)」、「Japon〔西〕(ハポン)」、「日本〔中〕(ジーベン)」、「日本〔朝〕(イルボン)」と様々に変化します(日本国内ですら「にっぽん」「にほん」の二通りがあるくらいですから…)。中国語と朝鮮語の場合はヨーロッパと同じく綴りに影響されている例ですね。「金(キムイルソン)」を思い出せば「日」が「イル」と読まれることが納得できる!?。