ギリシャからの言霊たち

普段何気なく使っている言葉の中から、ギリシャ神話の登場人物に因むものをご紹介します。

まず最初は「panic(パニック)」という言葉。ギリシャ神話に出てくるいたずら好きの牧神「Pan(パン)」に由来します。彼はあごひげをたくわえた老人の顔と、ヤギの足と角をもった半獣神なのですが、昼寝を邪魔されると怒り狂い、その怒り声は神をも恐怖に陥れた、との伝説からこの「恐慌状態」を意味する単語が生まれました。「Peter Pan(ピーター・パン)」のモデルになったとも言われています。

こだまを意味する「echo(エコー)」もギリシャ神話のニンフ「Echo(エコー)」の名前から。彼女は美青年「Narkissos(ナルキッソス)」に恋焦がれ、ついには声だけの存在になってしまいます。一方のNarkissosの方は「narcissist(ナルシシスト)」という精神分析用語になっています。

警報音「siren(サイレン)」は海の精「Seiren(セイレン)」から。上半身が女、下半身が鳥の姿をしたこの魔女は、その美しい歌声で島の近くを通った船人を誘惑して難破させたと伝えられます。その声(音)を聞いたら注意しろ、ということなのでしょう。英語の「siren」には「…を誘惑する」という動詞の用法もあります。なお、セイレンはスターバックスコーヒーのシンボルとしてもお馴染みですね(下半身は魚の姿になっています)。

意外なのが泥酔状態を表す「へべれけ」という言葉。女神「Hebe(ヘベ)」はオリンポス山での神々の宴のお酌係だったのですが、彼女が注ぐ酒のあまりの美味しさに神々は「Hebe erryeke(ヘベ・エリュエケ=ヘベのお酌)」になるまで飲んだとか飲まないとか。この時、彼らが飲んでいたのが霊酒「nektar(ネクタル)」。お察しの通り、森永の果汁飲料「nectar(ネクター)」の語源です。

しかしギリシャ神話の中で最も多くの単語を産み出したのはやはり「Musa(ムーサ)」(英語名「Muse(ミューズ)」)たちでしょう。彼女たちは「Zeus(ゼウス)」が女神「Mnemosyne(ムネモシュネ)」と9日間連続で交合した結果産まれた9人の女神たちで、学問・芸術を司る神々です。「music(ミュージック=音楽)」を初めとして、彼女たちを喜ばせるために捧げた技芸「amusement(アミューズメント)」、元は彼女たちの神殿を意味した「museum(ミュージアム←学問・芸術のための建物)」、その神殿を飾るための装飾「mosaic(モザイク)」などの言葉を残しています。


おまけ ― (この項にあった情報は加筆して「サンタと悪魔」に移動しました)