吉原映画祭

葦や籐のような硬い茎を持つ植物のことを、英語で「cane(ケイン)」と呼びます。サトウキビは英語で「sugarcane(シュガーケイン)」だし、花が美しい「canna(カンナ)」の名も「cane」に由来します。映画祭の開催地として有名なフランスの観光都市「Cannes(カンヌ)」は、葦が沢山生えていたことからその名が付きました。

「cane」はその茎が管になっていることから、管状または筒状のものを表す言葉も多く生み出しています。体内に液体を送り込む管状の医療器具「Kanüle〔独〕(カニューレ)」、砲弾を発射する筒である「cannon(キャノン=大砲)」、元々は送水管の意味だった「canal(カナル=運河)」や「channel(チャネル=海峡)」(テレビの「チャンネル」も同じ単語で「伝送路」の意味)、グランドキャニオンでお馴染みの「canyon(キャニオン=峡谷)」と、小さなものから大きなものまですべて「管」仲間。ファッションブランド「Chanel(シャネル)」の名は、創業者の「Coco Chanel(ココ・シャネル)」の姓ですが、彼女の先祖は水路のそばに住んでいたと考えられます。

「cane」は様々な道具を作るためにも用いられました。「canister(キャニスター)」は本来は葦で編んだかごのこと、「canon(キャノン)」は葦などから作った定規が原義ですが、そこから「基準」「規範」を表す用語として、宗教、音楽、美術等の様々な分野で使われています。なお、日本を代表する電子機器メーカーである「キヤノン」の名は、創業当時に発売したカメラの製品名「KWANON(←観音)」に音が似ていて、かつ意味も適している単語として、この「canon」を採用したものです。

なお、日本語の「葦(あし)」は「悪し」に通じることから、「ヨシ」とも呼ばれます。似たような言い換えの例には「スルメ((賭け事で)摩るに通じる)」を「アタリメ」、「梨(無しに通じる)」を「ありの実」と読ぶ例があります(こち亀でお馴染みの地名「亀有」も昔は「亀無」でした)。江戸時代の遊郭として有名だった吉原も、元の地名は「葦原」、なんとカンヌと同じ意味だったのです。


おまけ ― イタリアの天文学者スキャパレリは1877年に望遠鏡で火星の表面を観察し、その際に見つけた線状の模様を「canali〔伊〕(カナリ=溝)」と命名しました。ところが米国のアマチュア天文家ローウェルがこれを英語で(同源ではあるのですが)「canal(カナル=運河)」と訳してしまい、さらに1869年にスエズ運河が開通したばかりだったこともあって、火星には運河を作ることのできる知的生命がいるに違いないという火星人存在説が広まったのです(ローウェルについては「地獄の元素」も参照)。